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​研究課題

薬物組織移行・薬効・副作用の支配要因の変動を組み入れた定量的薬理動態予測システムの構築;
研究成果の産業界および規制(レギュラトリーサイエンス)への展開〜

​研究内容の概略

研究の必要性

 創薬初期のin vitroスクリーニングでは、投与後の血中濃度および標的臓器への移行を分子レベルで表す薬物動態学的(PK)パラメータ、および薬効ターゲットにおける濃度対効果の関係等を分子レベルで表す薬力学的(PD)パラメータが得られるが<図1>、候補化合物の各パラメータについて順位付けをおこなった際に、全てにおいて最も優れたものが見つかることは稀である。

従って、種々のin vitro試験により得られたパラメータを合理的・統合的に組み入れた数理モデルを構築し、ヒトin vivoにおける薬物動態や薬効の時間推移を定量的にシミュレーションすることが必須である。(モデリング&シミュレーション)<図2>

また、ヒトにおける薬物動態・薬効・副作用には個人差によるばらつきがあり、遺伝子多型や年齢、病態による変動もモデルに組み込んで予測する必要がある。<図3、図4>

これらを対象とした研究により、i) 薬物間相互作用を生じる確率の低い医薬品、ii) 個人間変動・病態の程度による影響を受けにくい医薬品、iii) 治療域の広い医薬品の効率的な開発に繋がるのみでなく、創薬・臨床の実態に即した判断基準(criteria)を産官学連携で構築することにも貢献できると考えている。

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研究の目的および概要

薬物組織移行・薬効・副作用の支配要因の変動を組み入れた定量的薬理動態予測システムの構築;
研究成果の産業界および規制(レギュラトリーサイエンス)への展開 

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 創薬における前臨床試験から臨床試験での薬物動態・薬効の予測性を向上させるために、以下の柱となる研究テーマを実施する。すなわち、① 代謝・輸送過程の両方が関与する複雑な薬物間相互作用 (DDI), 動態の個体間変動 (PGx)をPBPKモデルを用いて予測する、② 内因性バイオマーカーを用いたより精度の高いDDIの予測法を確立し医薬品申請に利用する、 ③ in vitro試験の結果を統合的に組み込んだIVIVE方法論を確立する(特に血漿タンパク結合の強い化合物)、④ 予測性の高いVirtual clinical trialを実施し検証する、①については、過去にセリバスタチン・ゲムフィブロジルの相互作用による横紋筋融解症の増悪が一因となりセリバスタチンが市場より撤退した例もあることから<図5>、医薬品開発において予測性を向上させ解決すべき課題である。このような複雑な相互作用においては代謝・輸送の寄与を定量的に予測するとともに基質・阻害剤の臓器内濃度推移も明らかにする必要がある。 臨床試験の報告例、および杉山らが過去数年以内に実施した臨床研究の結果を例として解析を行うとともに、代謝・輸送等のパラメータを統合的に用いて説明可能なモデルを構築する。

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これらの臨床試験においては、トランスポーター・代謝酵素両方の基質となる解析対象薬物に加えて、トランスポーター・代謝酵素の特異的な基質となるプローブも同時にマイクロドーズに近い量で投与することで、各蛋白分子の寄与率を解析することが可能となる<図6>。さらには、②の内因性バイオマーカーを用いることにより、DDI, PGx による変動をより精密に予測することが可能になると考えている。PBPKモデルに組み込まれる各パラメータの最適化計算法として、従来は適切なパラメータセットをひとつだけ探索する方法が広く用いられてきたが、パラメータの広域最適化法(Cluster Gauss Newton Method: CGNM)を用いて複数の適切なパラメータセットを網羅的に探索することで解析の信頼性を向上させる<図7>。

 

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さらに、④については、スタチン系薬剤を例とし人種差・遺伝子多型による薬物動態の個人差に関する解析を行ってきたが<図8、図9>、近年スタチン系薬剤で多くの臨床データを基に薬物動態・薬効・副作用と併用薬や遺伝子多型の関連を明らかにする研究が報告されてきていることから<図10>、杉山らの得意とするVirtual clinical studyの手法をもとに、個人差によるばらつきまで考慮した薬効・副作用のシミュレーションを進める<図11>。

また、スタチンに限らず、例えば薬効濃度と副作用濃度の幅が狭い抗がん剤、糖尿病薬等においても、個人差を組み入れたPK/PDおよびTK/TDのシミュレーションは今後ますます重要になってくると考えられる。このようなVirtual clinical studyの例を蓄積することにより、臨床第II相試験に相当する薬効用量の推定とバラツキの推定、第III相試験における薬効・副作用の推定およびspecial population(人種、年齢、肝腎機能疾患時)における動態・薬効・副作用の予測法を確立したいと考えている。これは、化合物の選択のみならず、臨床試験のデザインを立案する上で極めて重要な情報を与える研究となると考えられる。

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近年、マイクロドーズ臨床試験など、探索的な臨床試験を早い段階で実施して、開発候補化合物の選択を行うことが行われるようになっている。早期探索的臨床試験については、マイクロドーズ試験にとどまることなく、さらに一歩踏み込んで、薬効メカニズムのproof of conceptを示すため、また、ヒトにおける適切な投与量を第1相臨床試験に入る前に推定するために、薬効投与量に近い投与量を与える探索的臨床試験の実施の必要性が、国内外で議論されている。わが国においても、探索的臨床試験に必要な非臨床試験の項目を含むガイダンスが通知化され、三極合意に至り、臨床試験の新時代が切り拓かれた。

また、分子イメージング手法を探索的臨床試験に応用する可能性についても、種々の議論が始まっている。

⑤  早期探索的臨床試験は、すべての医薬品開発プロジェクトにおいて必要とは限らず、その必要性があるかどうかの判断基準の確立、および実施することに

なれば、実験的手法(バイオイメージング手法など)およびモデリング&シミュレーションの方法論の両アプローチを用いて実施上の戦略構築を支援するための方法論を確立する必要がある<図12、図13>。

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最終的には、in vitroスクリーニングにより得られるデータを最大限に生かせる全身の統合的な薬効・副作用予測モデルを構築し<図14>、医薬品開発の各プロセスにおいてコンピューターを用いたシミュレーションにより、創薬における成功率の向上と加速化に貢献するとともに、安全で有効な医薬品を迅速に届けるという医薬品行政のニーズにも大きく貢献していきたい。

 2021年度は、“前臨床〜臨床試験において、in vitroからヒト薬物動態の個人差を考慮した予測および代謝・輸送が関わる複雑な薬物間相互作用の予測に基づいた創薬支援システムの確立”を目指す。

上記の項目では、①、②,③ に相当する。

研究の特色および期待される効果

研究の目的および概要に示した予測は幅広い予測を含んでおり、薬物相互作用(DDI)の予測、遺伝子多型(PGx)などに基づく個人間変動の予測、病態時(肝障害、腎障害など)における薬物動態変動の予測、さらに病態時にDDI,PGXが重複したときの変動予測も含む。例えば、(1) In vitroデータを基にした臨床動態の予測、(2) バイオマーカー(血液、尿で測定可能なマーカー)に基づいた薬物動態、薬効・副作用の予測、などの予測法を組み合わせることにより予測精度をあげることが可能になってくる<図15、図16、図17>。

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(1) のin vitro 実験データからの予測については、この10年間の大きな進歩により大部分のことは可能になった。現在残されている大きな課題が2つあると思われる。血漿蛋白結合の大きい(99%以上結合するような化合物)の肝クリアランスの定量的予測が難しいこと、およびヒトにおける胆汁排泄クリアランスの予測が困難なことである。前者については、杉山らにより、いわゆるAlbumin-mediated hepatic uptake のメカニズムが明らかにされてきており<図18>、予測の端緒を開いたところである。後者についても、サンドイッチ培養肝細胞を用いる新しい実験法、解析法に取り組み始めている<図19>。従来から用いられている方法論を改良することによりin vivo クリアランスの予測が可能になることが期待できる。

 生理学的薬物速度論モデル(PBPKモデル)に基づく予測は、臨床試験の一部を省略することにもつながり、最近では臨床試験を実施することなくin vitro試験、前臨床試験の結果を基にモデリングによるヒト予測結果を添付文書に掲載することすら可能になってきている。これは、DDI、 PGxの予測に限るのみでなく、腎機能低下、肝機能低下とDDI、PGXの組み合わさったようなケースにすら適用可能となる。この数年以内には、これらの予測が可能になり規制側がこうした方法論による予測を認可しその結果は添付文書にも反映されるようになることは間違いない。

(参考; FDA Guidance for Industry;  Pharmacokinetics in Patients with Impaired Renal Function-Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing)

 これまでの杉山らの研究成果および新しい研究成果を基に、産官学連携によるこれら臨床試験結果の予測精度に関するcriteria作成等も引き続き推進していきたいと考えており、日本発の新薬創製を加速させるとともに安全で有効な医薬品を迅速に患者まで届けるという医薬品産業、行政の使命にも大きく貢献できると考えている。

​研究項目

代謝・輸送過程の両方が関与する複雑な薬物間相互作用 (DDI), 動態の個体間変動 (PGx)の予測; 

拡張クリアランス理論およびPBPKモデルによる予測

内因性バイオマーカーを用いたより精度の高いDDI予測法の確立

 In vitro試験の結果を統合的に組み込んだIVIVE方法論の確立(特に血漿タンパク結合の強い化合物)

ヒトにおける薬物動態の個体間変動、病態時変動、年齢による変動を予測可能にする virtual clinical study(VCS) に関する方法論の実施および検証

分子標的結合依存的な
薬物体内動態(TMDD)の解析

探索的臨床試験、マイクロドース臨床試験の必要性についての判断基準の確立

​研究の進め方

研究の大半は、これまでに蓄積したデータ、文献情報を基にしたコンピューター解析を行うドライ研究である。in vitro およびin vivo のevidence を得るためのウェット研究が必要な場合は、主にアカデミアの研究室との共同研究を実施する。ウエット研究、ドライ研究の共同研究先としては、現在も共同研究が実施されている 楠原洋之教授(東京大学大学院薬学系研究科)、前田和哉教授 (北里大学薬学部)、樋坂章博教授(千葉大学大学院薬学系研究科)、千葉康司教授、吉門崇准教授(横浜薬科大学)、宮内正二教授(東邦大学薬学部)、出口芳春教授(帝京大学薬学部)、Wooin Lee 教授(ソウル大学薬学部)、青木康憲博士(AstraZeneca, Sweden)を挙げることができる。このように多方面にわたる共同研究を実施することで、当研究室の目的を達成できるものと考えている。

​研究成果の報告

支援を頂く企業(参加企業)の研究者や担当者を招いて、

年2回のclosedの成果報告会を開く。

併せて公開シンポジウムを開催し、我が国における薬物動態研究(含む薬物間相互作用解析、遺伝子多型の解析)、早期探索臨床試験の基盤となる研究成果や国内外から研究者を招聘し、最先端の研究を紹介すると共に、本研究室の研究活動を一般に向けても紹介する。

 

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